ヘルスケア新規参入コラムNo.015 血糖自己測定器——本体23億円。「測定チップで稼ぐ」替刃モデルの代表例
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
糖尿病の方が、指先にごく小さな針を刺し、にじんだ血を細いチップにつけて血糖値を測る。この自己測定を支える機器が、血糖自己測定器です。英語の頭文字からSMBGとも呼ばれます。日々の血糖の動きを把握し、治療を調整するために欠かせない機器です。
本体の市場規模は約23億円と大きくありません。しかしこの品目は、本体の数字だけを見ていては本質を見誤ります。収益の柱は、測定のたびに使う使い捨ての測定チップにあるからです。
今週の数字:本体23億円、国産が中心
統計では「自己検査用グルコース測定器」という品目名で集計されています。
| 市場規模(生産+輸入) | 約23.4億円 |
| 国内生産 | 約17.5億円 |
| 輸入 | 約5.8億円(約25%) |
| 輸出 | 約7.8億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
本体の市場規模は約23億円。国内生産が約17.5億円で、輸入は約25%にとどまります。輸出が約7.8億円あり、国産が中心で、海外にも出ている品目です。ただし、これはあくまで測定器本体の数字です。患者さんが一回測るごとに一枚消費する測定チップは、別の枠組みで扱われており、その市場は本体よりはるかに大きいと考えられます。本体23億円という数字だけを見て市場を小さいと判断すると、この品目の本質を取り逃がします。
なぜ「本体で稼がない」のか——替刃モデルの典型
この品目は、収益のしくみがはっきりしています。測定器の本体は、安く提供されたり、医療機関を通じて患者さんの手元に渡ったりします。事業者が継続的に収益を得るのは、毎日の測定で消費される測定チップの側です。本体は入り口、チップが本番。髭剃りの本体と替刃の関係と同じ構造です。
この測定チップは、ごく微量の血液から血糖値を正確に読み取るために、酵素を使ったバイオセンサーと、微細に印刷された電極を組み合わせた精密な使い捨て部品です。安く見えて、実は技術の詰まった消耗品です。本体の競争はチップを売るための入り口にすぎず、本当の主戦場はこのチップにある、というのがこの市場の構造です。そして自分の測定器に対応したチップしか使えないため、一度ある測定器を使い始めた患者さんは、同じメーカーのチップを使い続けることになります。本体をどれだけ普及させるかが、その後のチップの売上を決めるのです。
機会の所在——センサーチップという主戦場
機会の中心は、測定チップにあります。酵素を扱うバイオセンサーの技術、微細な電極を安定して大量に印刷する技術、そして一枚ごとの品質をそろえる量産技術。これらは、日本の製造業が得意としてきた領域と重なります。毎日消費される消耗品であり、一度採用されれば需要が繰り返し発生する点も、事業として魅力があります。
ただし注意も必要です。患者さんの治療判断に直結する測定値を出す部品であり、求められる精度と品質は極めて高い。安く作れればよいという世界ではありません。精度と量産を両立できる技術を持つことが、この主戦場に立つ条件になります。
中小企業の入り口はどこか
入り口は測定チップに関わる部材と製造技術です。バイオセンサーの素材、電極の印刷、フィルムの加工、一枚ごとの検査。チップそのものを完成品として手がけるには高い精度が要りますが、その製造工程の一部を担う形であれば、印刷やフィルム加工、センサーの技術を持つ会社に接点があります。
測定器本体と測定チップの規制区分は分かれており、本体はクラスIII(高度管理医療機器)に分類されます。完成品で参入する場合は審査の壁が高いことを前提に、まずは部材・工程から関わる道が現実的です。
売り先は、糖尿病診療を担う医療機関や、測定器を供給する事業者です。チップを安定供給できる体制が、取引の前提になります。毎日使われる消耗品だけに、供給が途切れないことが何よりの信頼につながります。
今週のまとめ
血糖自己測定器は、本体市場約23億円。しかし収益の柱は、毎日消費される測定チップという替刃の側にありました。本体の数字の小ささに惑わされず、消耗品の側に市場の本体を見る。これが、この品目の読み方です。バイオセンサーや電極印刷の技術を持つ会社にとって、消耗品の主戦場に部材から関わる道があります。自社の技術が、その精密な使い捨て部品のどこに効くかを考えてみてください。
「ウチの技術はどの品目に向いているのか?」——そう思われた経営者の方は、ヘルスケアビジネス総研のメールマガジンで、参入検討に役立つ情報を毎週お届けしています。個別のご相談も受け付けています。
本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。