ヘルスケア新規参入コラムNo.014 電動式可搬型吸引器——市場30億円、在宅介護の痰吸引を支える小型機器

ヘルスケア参入機会図鑑

毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。

No.014電動式可搬型吸引器でんどうしきかはんがたきゅういんき
喉にたまった痰などを吸い出す持ち運び可能な機器。市場規模30億円。在宅介護での痰吸引に使われ、小型軽量化のニーズがある。
国産の空白(輸入依存度)55%
規制クラスクラスII(管理医療機器)
IIIIIIIV
クラスIIは第三者認証機関の審査で販売可能。4段階の中では参入しやすい部類
参入余地(筆者評価)
★★★★★
市場規模(生産+輸入)と輸出(金額ベース・令和6年)市場規模30億円国産 14億輸入 17億円輸出ほぼゼロ
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表より筆者作成(製造販売業者の取扱金額ベース)
この回が関係する業種ポンプ樹脂成形

皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。

自分で痰を出すのが難しい方は、喉にたまった痰を吸い出してもらう必要があります。これを痰吸引といい、その作業に使う機器が吸引器です。今回の電動式可搬型吸引器は、持ち運びができる小型のタイプ。病院だけでなく、在宅で介護を受ける方のそばに置かれ、家族や介護職員が使う機器です。

在宅介護を支える身近な機器ですが、国内市場の半分は輸入品が占めています。

今週の数字:市場規模30億円、輸入が55%

電動式可搬型吸引器の生産・輸入・輸出金額(令和6年)
市場規模(生産+輸入)約30.3億円
国内生産約13.5億円
輸入約16.7億円(約55%)
輸出ほぼゼロ
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表(医療機器一般的名称別生産・輸入・輸出金額)より筆者作成。金額は製造販売業者の取扱金額ベース。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html

市場規模は約30億円。国内生産が約13.5億円、輸入が約55%で、国産と輸入がほぼ拮抗しています。輸出はほぼゼロで、国内の需要に向けて供給されている品目です。国産にまだ足場が残る一方、市場の半分は輸入に明け渡している、という見方ができます。なお吸引器には据え置き型を含む別の区分もあり、医療用の吸引器全体ではこれより大きな市場になります。ここで見ているのは、その中でも持ち運べる小型タイプの数字です。

なぜ半分が輸入なのか——構造は単純、でも現場は手強い

吸引器の基本構造は、空気を吸い込むポンプと、吸い出したものをためる容器、そして患者さんにつなぐチューブです。仕組みとしては比較的単純で、その分、価格競争が働きやすく、海外からの輸入品が市場の半分を占めるに至ったと考えられます。

一方で、使う現場には単純とは言えない事情があります。痰吸引は、深夜でも必要なときに行われ、使う人は医療の専門家とは限りません。在宅では家族が使うことも多く、操作のわかりやすさ、動作音の静かさ、持ち運びやすさ、そして使ったあとの洗浄のしやすさが、製品の使い勝手を大きく左右します。価格だけでは語れない、現場の使いやすさという土俵が残っているのです。停電や災害時にも使えるバッテリー駆動の必要性など、在宅ならではの要件もあります。安く作るだけの輸入品が、こうした細かなニーズに必ずしも応えきれていない点に、国産が入り込む余地があります。

機会の所在——「家族が夜中に使う」を起点に

機会のありかは、この機器が使われる場面にあります。在宅介護の現場で吸引器を使うのは、多くの場合、医療の訓練を受けていない家族です。夜中に、急いで、不安な気持ちで使う。その状況を起点に製品を考え直すと、改善できる点が残っています。直感的に操作できること、夜中でも気兼ねなく使える静かさ、片手でも扱える軽さ、毎回の洗浄が苦にならない構造。こうした使い勝手は、製品の設計で応えられる領域です。

もう一つは消耗品です。吸引したものをためる容器やチューブ、フィルターは、衛生上の理由で定期的に交換されます。本体は数年使われますが、これらの部材は繰り返し消費されます。本体30億円の周りに、交換部材の継続需要が付いている点も見落とせません。一度採用されれば繰り返し注文が入る消耗品は、事業の収益を安定させてくれます。

中小企業の入り口はどこか

手前の入り口は部材・部品の供給です。心臓部の小型ポンプ、容器やチューブの樹脂成形、フィルター。とくに容器やチューブは消耗品であり、生産量が安定して見込める部材です。装置メーカーへの供給であれば、医療機器の認証を自社で抱える必要は基本的にありません。

一歩踏み込むなら、使う場面を絞った完成品です。在宅介護の家族が使うことに振り切った、わかりやすく静かで軽い吸引器。汎用品とは別の土俵で評価される余地があります。吸引器はクラスII(管理医療機器)で、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートが整備されています。

売り先は、在宅医療・介護を担う事業者や、その機器を扱う地域のディーラー(医療機器販売業者)です。介護の現場とのつながりが、製品の改善点を知る手がかりにもなります。実際に使う家族や介護職員の声を拾えるかどうかが、汎用品との差を生む鍵になります。

今週のまとめ

電動式可搬型吸引器は、市場規模約30億円・輸入55%・国産と拮抗。構造は単純でも、家族が夜中に使うという現場の事情が、価格以外の競争軸を残している品目でした。高齢化で在宅介護の需要は増えていきます。「医療の専門家でない人が、不安な状況で使う」という視点で製品を見直せないか。そこに、輸入品が取りこぼしている空白があります。

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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。

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