ヘルスケア新規参入コラムNo.013 人工呼吸器——市場63億円の8割が輸入。国産化が議論される命の機器
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
事故や重い病気で自力での呼吸が難しくなったとき、患者さんの呼吸を肺の代わりに支えるのが人工呼吸器です。集中治療室や手術室、そして在宅の現場で、文字通り命を預かる機器です。感染症が広がった時期に、この機器の不足が世界的なニュースになったことを記憶している方も多いと思います。
命を預かる重要な機器でありながら、国内市場の約8割は輸入品が占めています。
今週の数字:市場規模63億円、輸入が8割
統計では「成人用人工呼吸器」という品目名で集計されています。
| 市場規模(生産+輸入) | 約63.2億円 |
| 国内生産 | 約13.1億円 |
| 輸入 | 約50.2億円(約79%) |
| 輸出 | 約6.2億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約63億円。そのうち国内生産は約13億円で、輸入が約79%を占めます。輸出は約6.2億円。命に直結する機器でありながら、供給の大半を海外に頼っている品目です。だからこそ、有事の際の供給不安をきっかけに、国産化の必要性がたびたび議論されてきました。なお統計上は成人用・小児用・搬送用などに分かれており、ここで見ているのは成人用の数字です。在宅で使われる機器も含め、人工呼吸器という分野全体が、強い輸入依存のもとにあると考えてよいでしょう。
なぜ輸入に偏ったのか——高い壁が二重にある
人工呼吸器は、患者さんの状態に合わせて送り込む空気の量・圧力・タイミングを精密に制御し続ける機器です。誤作動が命に関わるため、求められる信頼性は極めて高く、その作り込みには長年の技術と臨床での実績の蓄積が必要です。世界の主要メーカーはこの蓄積を持ち、市場での地位を築いてきました。
もう一つの壁が規制です。人工呼吸器はクラスIII(高度管理医療機器)に分類されます。多くの場合、厚生労働大臣の承認が必要で、審査には高度な臨床データが求められます。技術の壁と規制の壁が二重にあることが、新規参入を難しくし、結果として輸入依存を生んできたと読めます。感染症が広がった時期には、各国が自国向けの確保を優先し、必要な機器が思うように手に入らない事態も起きました。供給を海外に頼ることのリスクが、現実のものとして意識された出来事でした。
機会の所在——本体ではなく、周辺と供給網
正直に言えば、完成品の人工呼吸器そのものに中小企業が単独で参入するのは、現実的ではありません。技術と規制の二重の壁が高すぎるからです。機会があるとすれば、本体ではなく周辺にあります。
一つは、機器を構成する部材です。流量や圧力を測るセンサー、空気の流れを制御するバルブ、患者さんと機器をつなぐ呼吸回路やマスク。とくに呼吸回路まわりは、感染対策の観点から使い捨てが基本で、繰り返し消費される部材です。もう一つは、有事に備えた供給網そのものへの関与です。供給を海外に頼る不安が意識される中で、部材を国内で安定して供給できる体制には、平時とは別の価値が生まれつつあります。命の機器の供給網の一部を、国内で担う。そこに中小企業の関わり方があります。
中小企業の入り口はどこか
現実的な入り口は部材・周辺品の供給です。センサー、バルブ、呼吸回路、マスク。装置メーカーへの部材供給であれば、完成品の承認のような重い手続きを自社で抱える必要は基本的にありません。精密な機械部品や流体制御の技術を持つ会社にとって、検討の余地がある領域です。
呼吸回路やマスクといった患者さんに触れる消耗品は、品目によってはクラスIIで、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートがあります。本体ではなく、こうした消耗品側の完成品から関わる道も考えられます。
売り先は、集中治療を担う医療機関や在宅医療の事業者で、地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口になります。命に関わる機器だけに、品質と供給の確かさが何より問われる市場です。一足飛びに本体を狙うのではなく、まず部材で実績と信頼を積み、医療機器の品質管理の作法を身につける。そのうえで関わりを広げていくのが、地に足のついた進み方です。
今週のまとめ
人工呼吸器は、市場規模約63億円・輸入79%・クラスIII。技術と規制の二重の壁が高く、完成品での参入は容易ではありません。それでも、センサー・バルブ・呼吸回路といった部材と、有事に備えた国産供給網には、中小企業が関わる余地が残っています。命の機器の供給を海外だけに委ねていてよいのか。この問いを、自社の技術と重ねて一度考えてみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。