ヘルスケア新規参入コラムNo.006 家庭用電気マッサージ器——届出だけで参入できるクラスIに、301億円の市場と9割の輸入依存
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
家電量販店のマッサージコーナーで、つい腰を下ろして試してしまった。あるいは、贈り物で受け取った小型のマッサージ器が居間に置いてある。家庭用電気マッサージ器は、それくらい暮らしに溶け込んだ製品です。
意外に思われるかもしれませんが、これらは法律上の「医療機器」です。そしてこの品目には、際立った特徴が二つあります。市場規模が301億円と大きいこと、そして規制が最も軽いクラスIであることです。
今週の数字:市場規模301億円、輸入が9割
| 市場規模(生産+輸入) | 約301.2億円 |
| 国内生産 | 約28.0億円 |
| 輸入 | 約273.2億円(約91%) |
| 輸出 | 約9.9億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約301億円。家庭用の医療機器では最大級の品目です。そして輸入は約273億円、市場の約91%です。国内生産は約28億円にとどまります。
なぜこうなったのか——家電の論理で動く医療機器
マッサージ器の市場は、医療機器でありながら、実態としては家電の論理で動いています。売り場は家電量販店やEC。買い手は患者ではなく一般の消費者。製品はモーターと機構部品の塊で、家電の量産体制と相性がよい。価格競争が働けば、生産は製造コストの低い海外に集まります。9割という輸入比率は、その行き着いた姿といえます。
もう一つ注目すべきは規制クラスです。マッサージ器はクラスI(一般医療機器)。クラスIIのような第三者認証は不要で、行政への届出によって販売できる、医療機器の中で最も参入障壁の低い区分です。301億円という市場の大きさと、この規制の軽さの組み合わせは、医療機器の中でも珍しい好条件に見えます。
一点、注意しておきたいことがあります。世の中には、マッサージ器に似ていても医療機器ではない「雑貨」として売られている製品も数多くあります。体への効果をうたって販売するなら医療機器としての扱いが必要になる、という境界の問題は、この分野に参入する際に必ず確認すべき論点です。詳しくは専門家への相談をおすすめしますが、境界があること自体は覚えておいてください。
機会の所在——「安い量産品」と「高級チェア」の間
ただし、好条件の市場には理由があります。誰でも入りやすい市場は、競争相手も多い市場です。ECを開けば低価格のマッサージ器が無数に並んでおり、価格で戦う限り、輸入量産品との消耗戦になります。機会はその外側にあります。
この市場の製品は、数千円のハンディ型から数十万円の高級マッサージチェアまで、価格の幅が極端に広いのが特徴です。その間には、特定の使い手・特定の部位・特定の場面に絞った製品の余地が残っています。たとえば椅子や寝具と一体になった設計、働く現場の休憩スペース向け、介護・リハビリの現場で使いやすい形。タグに「家具」「縫製」とあるのは、この品目の本体が、実は布と木とウレタンの世界でもあるからです。
また、大型のマッサージチェアは単価が高く、購入のハードルも高い製品です。法人の福利厚生向けの設置やレンタル・リースといった、売り切り以外の届け方に工夫の余地があります。高単価の製品は、収益モデルの設計次第で買い手の裾野が変わるのです。設置した後の清掃・点検や張り替えといった、製品を長く使ってもらうためのサービスも、収益が続くポイントになります。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・部品の供給です。モーターや振動機構、もみ玉まわりの機構部品、椅子型の骨格となる家具部材、カバーやクッションの縫製。家具・縫製・機構部品の会社にとって、既存の設備と技能がそのまま活きる領域です。部材の供給側に医療機器の手続きは基本的に不要です。
一歩踏み込むなら、完成品への参入です。クラスIは届出のみで販売でき、認証審査がない分、製品の企画から市場投入までの距離が医療機器の中で最も短い区分です(製造販売業の許可など、事業者としての基本的な体制整備は必要です)。量販の棚で価格勝負を挑むのではなく、自社の販路や顧客に合わせた製品で小さく始められます。家具メーカーが自社のいすにマッサージ機能を載せる、寝具メーカーが自社の枕に組み込む。自社製品と医療機器の掛け合わせから発想できるのも、クラスIの身軽さがあってこそです。
売り先は、消費者向けの家電量販店・ECに加えて、法人向けという選択肢があります。オフィスの休憩室、温浴施設、宿泊施設。設置先の業種ごとに求められる仕様は異なり、そこに特化した提案は量産品では対応しにくい部分です。
今週のまとめ
家庭用電気マッサージ器は、市場規模約301億円・輸入91%・クラスI。市場の大きさと参入障壁の低さが両立している、数字の上では絶好の入り口でした。ただし入りやすい市場は競争も激しく、勝負どころは価格ではなく、使い手と場面の絞り込みにあります。規制の軽い品目から医療機器ビジネスの経験を積み、より規制の重い品目へ進む。その第一歩として、自社の製品や得意な素材にマッサージ機能を掛け合わせる余地がないか、一度発想してみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。