ヘルスケア新規参入コラムNo.005 家庭用低周波治療器——ドラッグストアに並ぶ36億円市場、その84%は輸入品
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
長時間の机仕事のあと、肩や腰が重い。マッサージに行く時間はない。そんなとき、ドラッグストアの棚で「低周波治療器」と書かれた箱を手に取ったことのある方は多いと思います。ジェルのパッドを肩や腰に貼り、電気の刺激でこりや痛みを和らげる。数千円から買える、身近な家庭用医療機器です。
身近な製品ですが、市場の大半を輸入品が占める、「国産の空白」の大きな品目です。
今週の数字:市場規模36億円、輸入が84%
| 市場規模(生産+輸入) | 約36.4億円 |
| 国内生産 | 約5.9億円 |
| 輸入 | 約30.4億円(約84%) |
| 輸出 | 約0.5億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約36億円。国内生産は約5.9億円しかなく、輸入が約84%を占めます。輸出は約0.5億円とごくわずか。国内のものづくりの足場が、かなり細くなっている品目です。
なぜこうなったのか——量販流通と価格競争の組み合わせ
この品目の特徴は、売り場が医療機関ではなく、ドラッグストアや家電量販店、ECといった量販の流通にあることです。量販の売り場では、棚に並んだ製品同士が価格で比べられます。基本構造が固まった製品の価格競争は、生産コストの低い海外への移転を招きます。この品目も、その道筋をたどってきたと読めます。
輸出が約0.5億円とほぼゼロである点も、同じ文脈で読めます。国内向けの生産すら細っている品目は、海外で戦う足場も持ちにくいのです。輸入依存度と輸出額をセットで見ると、その品目の産業としての体力が浮かび上がってきます。
一方で、輸入84%という数字は、見方を変えれば国内の供給にそれだけ空白があるということです。36億円という市場規模は、大企業が本気で取りに来るには小さく、中小企業には十分な大きさ。この組み合わせは、中小企業にとって注目すべき型です。
機会の所在——本体より「貼るもの」と「続けたくなる使い心地」
この機器には、わかりやすい消耗品があります。肌に貼るゲルパッドです。粘着力は使うたびに落ち、定期的な買い替えが前提になっています。本体を一度売って終わりではなく、パッドの購入が続く。収益の柱が消耗品の側にある構造は、髭剃りの本体と替刃の関係とよく似ています。粘着素材やゲル、フィルム加工の技術を持つ会社にとって、本体をつくらずに市場の中心部に関われる入り口です。
使い心地にも改善の余地が残っています。パッドの貼り直しのしにくさ、コードの煩わしさ、衣服の下で使いにくいこと、刺激の強さの調整が感覚頼みであること。毎日のセルフケアとして続けてもらうための工夫は、まだ出尽くしていません。
使われる場面の広がりにも目を向けたいところです。机仕事の続く職場、長距離の運転、立ち仕事の現場。体のこりや疲れは、働く現場の生産性の問題でもあります。個人が店頭で買う製品という枠を外し、働く人のコンディションを支える道具と捉え直せば、法人という別の買い手を想定できます。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・部品の供給です。電気刺激を制御する電子部品、小型化と防滴のための樹脂筐体、そして先ほどのゲルパッドに使われる粘着・ゲル素材。とくにパッドは消耗品ゆえに生産量が安定して見込める部材です。完成品メーカーへの供給という形なら、自社で医療機器の手続きを抱える必要は基本的にありません。粘着素材の会社が医療分野に足を踏み入れる最初の一歩として、現実的な大きさの仕事です。
一歩踏み込むなら、使う場面を絞った完成品です。汎用品が並ぶ棚で価格勝負をするのではなく、たとえば働く人の休憩時間に使いやすい形、高齢の方でも操作に迷わない形など、特定の使い手に振り切った設計で別の土俵をつくる。家庭用低周波治療器はクラスII(管理医療機器)で、認証基準が整備されており、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートがあります。
売り先がドラッグストアやECという消費者向けの流通であることは、医療機関への営業網を持たない会社にとってはむしろ追い風です。ただし消費者向けの管理医療機器の販売には所定の手続きが必要になるため、販路の設計と合わせて早めに専門家に確認しておくと安心です。
今週のまとめ
家庭用低周波治療器は、市場規模約36億円・輸入84%・輸出ほぼゼロ。量販流通の価格競争で国産が細った跡に、大きな空白が残っている品目でした。そして本体の隣には、ゲルパッドという繰り返し買われる消耗品の市場が付いています。身近な売り場に並ぶ製品ほど、数字で見ると意外な空白が見つかる。今度ドラッグストアに寄ったら、替えパッドの売り場を供給者の目で眺めてみてください。収益の柱が消耗品側にあることが、棚の広さからも確認できるはずです。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。