ヘルスケア新規参入コラムNo.007 家庭用永久磁石磁気治療器——87億円がほぼ全量国産。「輸入依存の逆」から学べること

ヘルスケア参入機会図鑑

毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。

No.007家庭用永久磁石磁気治療器かていようえいきゅうじしゃくじきちりょうき
磁石を肌に貼るなどして用いる家庭用の治療器。市場規模87億円のほぼ全量が国産という、医療機器では少数派の構造を持つ品目。
国産の空白(輸入依存度)0%
規制クラスクラスI(一般医療機器)
IIIIIIIV
クラスIは行政への届出のみで販売可能。4段階の中で最も参入しやすい
参入余地(筆者評価)
★★★★★
市場規模(生産+輸入)と輸出(金額ベース・令和6年)市場規模87億円国産 87億輸出1.5億円
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表より筆者作成(製造販売業者の取扱金額ベース)
この回が関係する業種磁性材料貼付剤・粘着素材

皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。

肩こりのあたりに貼る、小さな磁石の付いた円い絆創膏。あるいは磁石入りのネックレスやブレスレット。ご自宅の引き出しに一つくらい入っていないでしょうか。これらは「家庭用永久磁石磁気治療器」という名前の、れっきとした医療機器です。

家庭向けの医療機器には、市場の大半を輸入品が占める品目が少なくありません。ところが今回の品目は、その逆を行きます。市場規模87億円の、ほぼ全量が国産。輸入はゼロです。なぜそんなことが起きるのか。今回はこの「逆の数字」の読み方を考えます。

今週の数字:市場規模87億円、輸入ゼロ

家庭用永久磁石磁気治療器の生産・輸入・輸出金額(令和6年)
市場規模(生産+輸入)約86.7億円
国内生産約86.7億円
輸入ゼロ(0%)
輸出約1.5億円
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表(医療機器一般的名称別生産・輸入・輸出金額)より筆者作成。金額は製造販売業者の取扱金額ベース。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html

市場規模は約86.7億円で、国内生産も約86.7億円。輸入はゼロです。一方で輸出は約1.5億円と、市場規模に対してごくわずかです。つまり、国内でつくられ、国内で売られて完結している市場です。貼る磁石にこれだけの規模の市場があるという事実だけでも、統計を品目別に見る価値を感じていただけるのではないでしょうか。

なぜ輸入品が入ってこないのか

製品としての磁気治療器は、磁石と粘着テープなどを組み合わせた、構造としては比較的単純なものです。技術的な参入障壁が高いから海外勢が入れない、という説明は当てはまりにくいでしょう。一般に、構造が単純で価格競争に向かいやすい製品ほど、生産は製造コストの低い海外へ移りやすいものです。その法則に従えば、この品目も輸入品だらけになっているはずです。

考えられる説明は、市場の成り立ちにあります。この市場は、国内の事業者が長い年月をかけて知名度と売り場を築き、「この種の製品といえばこれ」という認知を確立してきた市場です。買い手が製品を選ぶ基準は、性能の比較ではなく、長年の馴染みと信頼。こうした市場では、後から安い類似品を持ち込んでも棚と認知を取れず、輸入品が割り込む余地が生まれにくいと考えられます。参入障壁は技術ではなく、ブランドと販路にある。輸入ゼロという数字は、その強さの表れと読めます。

機会の所在——空白のない市場で、どこを見るか

では、輸入依存の空白がないこの市場に、参入の機会はないのでしょうか。正直に言えば、入り口の狭い市場だと考えます。確立されたブランドと真正面から競うのは、中小企業の取る戦略ではありません。それでも、数字の中に見ておくべき点が二つあります。

一つは輸出の小ささです。国内87億円に対して輸出1.5億円。国内で完結しているということは、海外市場はほぼ手つかずだということでもあります。もちろん、海外で同じ製品文化が通用するかは慎重な検討が要りますが、「国内で強い製品の海外展開」という切り口は、この品目に限らず押さえておく価値があります。もう一つは部材です。87億円分の製品が毎年国内で生産されている以上、磁性材料、粘着素材、包装資材の調達は国内で続いています。完成品市場に空白がなくても、供給網の中の部材には入れ替わりの機会があります

中小企業の入り口はどこか

まず現実的な入り口は部材の供給です。磁石そのものを扱う磁性材料、肌に触れる粘着・貼付素材、そして毎日大量に使われる包装。とくに肌に長時間貼る製品の粘着素材は、かぶれにくさと粘着力の両立という、素材技術の蓄積が活きる領域です。貼付型の製品は消耗品でもありますから、採用されれば需要は繰り返し発生します。

完成品で考えるなら、この品目はクラスI(一般医療機器)であり、行政への届出によって販売できる、規制上は最も入りやすい区分です。ただし先に見た通り、この市場の本当の障壁は規制ではなくブランドと販路です。規制が軽いことと、商売として成立しやすいことは別の問題。規制クラスだけを見て参入のしやすさを判断してはいけないという、よい教材でもあります。

売り先は、ドラッグストアなど消費者向けの流通が中心です。自社で消費者向けの販路や顧客基盤をすでに持っている会社であれば、その販路に乗せる形での企画は検討に値します。販路から発想する参入は、製品から発想する参入より、この市場では筋がよいはずです。御社がすでに持っている顧客との接点は何か。その棚卸しから始めてください。

今週のまとめ

家庭用永久磁石磁気治療器は、市場規模約87億円・輸入ゼロ・輸出1.5億円。国内で完結し、ブランドと販路が障壁となっている市場でした。輸入依存度が高い品目には供給の空白という機会があり、低い品目には強い既存勢力という壁がある。同じ統計の数字でも、高いから良い、低いから悪いという単純な話ではない。「自社がすでに持っている販路で売れるヘルスケア商品はないか」。この品目は、その問いを立てる練習台に向いています。

「ウチの技術はどの品目に向いているのか?」——そう思われた経営者の方は、ヘルスケアビジネス総研のメールマガジンで、参入検討に役立つ情報を毎週お届けしています。個別のご相談も受け付けています。

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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。

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