ヘルスケア新規参入コラムNo.018 エアパッド加温装置——401億円が全量輸入。手術中の体温を守る使い捨ての空白
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
手術中、患者さんの体は思いのほか冷えます。麻酔で体温の調節がうまく働かなくなるうえ、手術室は清潔を保つために室温が低く設定されているからです。体温が下がりすぎると、合併症のリスクが高まります。これを防ぐため、温風を送り込んだ薄いブランケットで患者さんを温めるのが、今回のエアパッド加温装置です。手術室では標準的に使われています。
手術の安全を支える機器ですが、統計上の数字には驚かされます。市場規模401億円が、まるごと輸入です。国内生産はゼロです。
今週の数字:市場規模401億円、国産ゼロ
| 市場規模(生産+輸入) | 約400.6億円 |
| 国内生産 | ゼロ |
| 輸入 | 約400.6億円(100%) |
| 輸出 | ほぼゼロ |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約401億円。手術室で使われる機器としては大きな市場です。そのすべてが輸入で、国内生産はゼロ。輸出もありません。手術中の患者さんを温めるブランケットは、一枚残らず海外から運ばれてきている計算です。このブランケットは患者ごとに使い捨てにされる消耗品であり、手術の数だけ消費されます。需要が安定して大量に発生する市場が、まるごと海外に委ねられているのです。
なぜ国産がないのか——標準を握られた使い捨て
この装置は、温風をつくる送風機とヒーター、温度を保つ制御装置、そして患者さんにかける不織布のブランケットからなります。一つひとつの技術は、特別に高度なものではありません。それでも国産がゼロなのは、技術ではなく、市場の成り立ちによるものと考えられます。
手術中の保温は、早くから海外メーカーが製品を供給し、世界中の手術室で標準的な処置として定着させてきました。装置とブランケットがセットで使われ、いったん装置が病院に入れば、対応する使い捨てブランケットが継続的に消費されます。標準を握った先行メーカーが、装置と消耗品の両方で市場を固めてきた。国内メーカーが入り込む隙が少なく、結果として国産ゼロに至ったと読めます。手術に欠かせない処置でありながら、その供給を丸ごと海外に頼っている状態です。
機会の所在——使い捨てブランケットという継続需要
401億円が全量輸入で、技術の壁が特別に高いわけではない。この空白の中心にあるのが、使い捨てのブランケットです。これは不織布でできた製品で、不織布の加工や衛生材料の製造を手がける会社の技術と重なります。手術のたびに一枚消費される消耗品であり、需要は安定して繰り返し発生します。
もちろん、患者さんに直接かけて温める製品であり、温度のムラがないこと、安全であることなど、求められる品質は高いものです。しかし、不織布や衛生材料に強みを持つ国内の製造業にとって、手の届かない領域ではありません。装置本体を国産で開発する動きを送風・ヒーター・制御の技術で支えることもできますし、使い捨てブランケットそのものを手がける道もあります。手術の安全を支える消耗品を、国内で供給する。そこに参入の糸口があります。
中小企業の入り口はどこか
手前の入り口は使い捨てブランケットと装置の部材です。ブランケットの不織布加工、送風機、ヒーター、温度制御の部品。とくにブランケットは、不織布加工と衛生材料の技術が活きる消耗品です。装置メーカーへの部材供給であれば、医療機器の認証を自社で抱える必要は基本的にありません。
装置やブランケットの完成品は、管理医療機器として第三者認証機関の審査で市場に出せる区分にあたると考えられます。輸入が100%ということは、国産品が置き換わる余地が市場全体に広がっているということです。品質と価格で勝負できる製品を作れれば、機会は大きいといえます。
売り先は、手術を行う医療機関で、地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口になります。手術室で標準的に使われる消耗品だけに、採用されれば安定した取引につながります。手術室は使う製品を頻繁には変えませんが、いったん信頼を得れば長く使い続けてもらえる市場でもあります。
今週のまとめ
エアパッド加温装置は、市場規模約401億円・全量輸入・国産ゼロ。手術の安全を支える大きな市場が、装置も使い捨てブランケットも、まるごと海外に委ねられている品目でした。技術の壁が高いからではなく、標準を先に握られたがゆえの空白です。不織布や衛生材料、送風・制御の技術を持つ会社にとって、これは検討に値する大きさの空白です。手術のたびに消費される使い捨ての消耗品を国内で供給できないか。自社の技術と重ねて考えてみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。