ヘルスケア新規参入コラムNo.017 逐次型空気圧式マッサージ器——662億円がほぼ全量輸入。病棟の血栓予防という巨大な空白

ヘルスケア参入機会図鑑

毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。

No.017逐次型空気圧式マッサージ器ちくじがたくうきあつしきまっさーじき
脚に巻いて空気で順番に圧迫し、血の流れを促す医療用機器。入院患者の血栓予防に病棟で広く使われる。市場規模662億円のほぼ全量が輸入。
国産の空白(輸入依存度)99.9%
規制クラスクラスII(管理医療機器)
IIIIIIIV
クラスIIは第三者認証機関の審査で販売可能。4段階の中では参入しやすい部類
参入余地(筆者評価)
★★★★★
市場規模(生産+輸入)と輸出(金額ベース・令和6年)市場規模662億円輸入 661億円輸出ほぼゼロ
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表より筆者作成(製造販売業者の取扱金額ベース)
この回が関係する業種樹脂フィルムポンプ縫製電装・制御

皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。

手術のあとや長く寝たきりの状態が続くと、脚の血の流れが滞り、血の塊(血栓)ができやすくなります。これが肺に飛ぶと命に関わることがあり、エコノミークラス症候群として知られる現象です。これを防ぐため、入院患者さんの脚にカバーを巻き、空気で順番に圧迫して血の流れを促すのが、今回の逐次型空気圧式マッサージ器です。病棟では当たり前のように使われています。

名前に「マッサージ器」とありますが、家庭でくつろぐための機器とはまったくの別物で、病院で使われる医療機器です。そしてこの品目には、見過ごせない数字があります。市場規模662億円の、ほぼ全量が輸入です。

今週の数字:市場規模662億円、ほぼ全量が輸入

逐次型空気圧式マッサージ器の生産・輸入・輸出金額(令和6年)
市場規模(生産+輸入)約661.8億円
国内生産約0.5億円
輸入約661.3億円(約99.9%)
輸出ほぼゼロ
出典:厚生労働省「令和6年 薬事工業生産動態統計年報」第15表(医療機器一般的名称別生産・輸入・輸出金額)より筆者作成。金額は製造販売業者の取扱金額ベース。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html

市場規模は約662億円。これまで扱ってきた家庭用機器とは桁の違う、大きな市場です。ところが国内生産はわずか約0.5億円で、輸入が約99.9%。輸出もありません。これだけ大きな市場が、まるごと海外からの供給で成り立っているのです。病棟で日常的に使われ、需要が安定している機器でありながら、国産がほぼ存在しない。国産供給の空白としては、とりわけ大きい品目です。

なぜ国産がないのか——地味で、目立たない機器だから

この機器は、脚に巻く空気袋のカバーと、空気を送り込むポンプ、そして圧迫の順番とタイミングを制御する装置からなります。一つひとつの技術は、特別に高度なものではありません。にもかかわらず国産がほぼないのは、技術の壁というより、市場の成り立ちによるところが大きいと考えられます。

血栓予防という用途は地味で、患者さんが自分で選んで買う機器でもありません。病院が標準的な処置として導入するもので、早くから製品を供給してきた海外メーカーが、病院での採用実績を積み上げ、市場を押さえてきました。国内のメーカーがあえて参入する動機を持ちにくかった。その結果としての輸入99.9%だと読めます。裏を返せば、技術的に手が届かないから空いているのではなく、誰も本気で取りに行かなかったから空いている市場だということです。

機会の所在——662億円の空白を、部材から

662億円が全量輸入で、技術の壁が特別に高いわけではない。これは、国産供給の空白として大きな可能性を秘めています。脚に巻くカバーは、樹脂フィルムと縫製でできた空気袋であり、フィルム加工や縫製の技術を持つ会社の領域です。空気を送るポンプ、圧迫を制御する電装。いずれも、日本のものづくりが対応できる要素です。

とくにカバー部分は、衛生上の理由から患者ごとに使い捨てにされることが多く、繰り返し消費される消耗品です。装置本体だけでなく、この使い捨てカバーの供給は、安定した需要が見込める領域です。完成品の装置を国産で開発する動きを、フィルム・縫製・ポンプ・電装といった部材から支える。あるいは使い捨てカバーそのものを手がける。662億円の空白には、複数の入り口があります。

中小企業の入り口はどこか

手前の入り口は部材・消耗品の供給です。空気袋カバーの樹脂フィルムと縫製、ポンプ、制御の電装部品。とくに使い捨てカバーは、フィルム加工と縫製の技術がそのまま活きる消耗品です。装置メーカーへの部材供給という形なら、医療機器の認証を自社で抱える必要は基本的にありません。

装置や使い捨てカバーの完成品は、管理医療機器として第三者認証機関の審査で市場に出せる区分にあたると考えられます。輸入がこれだけ多いことは、国産の代替品が入り込む余地が大きいことを意味します。価格と品質で勝負できる完成品を開発できれば、置き換えの機会は小さくありません。

売り先は、病院などの医療機関で、地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口になります。病棟で標準的に使われる機器だけに、一度採用されれば安定した取引につながりやすい市場です。

今週のまとめ

逐次型空気圧式マッサージ器は、市場規模約662億円・輸入99.9%。病棟で日常的に使われる大きな市場が、まるごと海外に委ねられている品目でした。技術の壁が高いからではなく、誰も本気で取りに行かなかったがゆえの空白です。フィルム・縫製・ポンプ・電装といった技術を持つ会社にとって、これは見過ごせない大きさの空白です。自社の技術が、この662億円のどこに食い込めるか。一度真剣に検討する価値があります。

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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。

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