ヘルスケア新規参入コラムNo.003 パルスオキシメータ——本体は44億円、消耗品は278億円。収益の在りかが違う市場
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
コロナ禍の自宅療養のとき、保健所から小さな機器が送られてきた。指先に挟むと数秒で数字が出る、あの機器を覚えていらっしゃるでしょうか。パルスオキシメータといいます。血液中の酸素飽和度、つまり血液にどれだけ酸素が乗っているかを、皮膚の上から光で測る機器です。
それまで医療現場の道具だったこの機器は、コロナ禍を境に一般の家庭にも知られるようになりました。この機器の市場には、本体よりもはるかに大きな消耗品の市場が付いています。今回はその構造を見ていきます。
今週の数字:本体44億円、その隣に消耗品278億円
| 市場規模(生産+輸入) | 約44.2億円 |
| 国内生産 | 約11.3億円 |
| 輸入 | 約32.9億円(約74%) |
| 輸出 | 約2.7億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約44億円で、輸入が約74%を占めます。ところが同じ統計には「単回使用パルスオキシメータプローブ」という別の品目があり、その市場規模は約278.5億円。本体の6倍を超える大きさです。プローブとは、指先に装着するセンサー部分のこと。病院では感染対策などの理由から使い捨てのプローブが大量に使われており、その消耗品市場が本体よりはるかに大きいのです。
なぜこの形になったのか——本体は成熟、消耗品は日常的に出る
本体は、技術的には成熟した製品です。光を当てて数値を表示するという基本構造が固まり、競争の軸が価格に移った結果、生産は海外へ移りました。輸入74%という数字はその結果です。コロナ禍で需要が急増した時期に、店頭で品薄になったことを覚えている方も多いと思います。
一方、消耗品のプローブは様子が違います。患者さんが入院している間、毎日使われては交換されていく。機器は一度売れたら何年も使われますが、消耗品は日々消費され続けます。金額の主戦場が本体から消耗品に移っている。この市場の最大の特徴はここにあります。
機会の所在——収益は「測る瞬間」より「使い続ける日々」に
この構造は、ビジネスの目線で見るとわかりやすい形をしています。本体を入り口として、消耗品で継続的に収益が生まれる。参入を考えるなら、44億円の本体市場だけを見るのではなく、278億円の消耗品側まで含めて市場を捉える必要があります。
消耗品側の商売には、もう一つの利点があります。需要が安定していることです。機器の買い替えは景気や予算で先送りされますが、入院患者さんがいる限り、プローブの消費は止まりません。受注の波が小さい仕事は、生産計画の立てやすさという形で、つくる側の経営を助けてくれます。
家庭側にも空白は残っています。コロナ禍で買われた機器の多くは、いまは引き出しの中です。在宅医療や呼吸器の病気を抱える方の日常管理では、測った値をどう記録し、誰がいつ確認するかという仕組みがまだ整っていません。測定値が自動で記録され、家族や医療者と共有される形になれば、機器は「持っているだけ」から「使われ続ける」ものに変わります。高齢の親を離れて見守る家族、という買い手の顔も浮かびます。ここでも収益はデータの側で続きます。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・部品の供給です。この機器の心臓部は、光を出す発光素子と受け取る受光素子、それを支える光学部品と電子回路です。ケーブルやコネクタ、指を挟むバネ構造の樹脂部品も要ります。部材の供給側には、医療機器の認証のようなハードルは基本的にありません。光学系の組み立てや検査を受託してきた会社、精密なバネや小型コネクタをつくってきた会社にとって、既存技術の延長で検討できる領域です。
一歩踏み込むなら、消耗品側のものづくりです。使い捨てプローブは、フィルムや粘着素材、細いケーブル、小さな光学部品を組み合わせた製品で、印刷・フィルム加工・粘着素材といった業種の技術が活きる領域です。278億円の市場に、部材から関わる道があります。本体やプローブの完成品はクラスII(管理医療機器)で、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートが整備されています。
売り先は、病院向けが中心なら地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口になります。消耗品は一度採用されると繰り返し注文が入る商材なので、ディーラーにとっても扱いやすい部類です。家庭向けはドラッグストアやECが売り場になりますが、価格競争が激しいため、誰のどんな困りごとに応えるかを絞り込むことが前提になります。本体・消耗品・データの三層のうち、自社の技術がどの層に効くのか。そこから逆算して入り口を選ぶのが、この品目の歩き方です。
今週のまとめ
パルスオキシメータは、本体市場約44億円・輸入74%という成熟した市場の隣に、約278億円の消耗品市場が広がっている品目でした。収益の在りかは、機器を売る瞬間ではなく、使われ続ける日々の側にある。本体の数字だけを見ていると、市場の本当の大きさを見誤る。これから品目を検討するときは、消耗品と周辺品まで含めて市場規模を調べてみてください。本体だけの数字とは、判断が変わってくるはずです。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。