ヘルスケア新規参入コラムNo.002 自動電子血圧計——市場規模276億円、輸出95億円。日本の機器産業が世界で戦っている品目
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
健康診断で血圧を指摘されて、家で血圧を測り始めた。そんな方は多いと思います。朝晩の値を手帳やアプリに記録して、診察のときに持っていく。自動電子血圧計は、家庭の健康管理にすっかり定着した機器です。
身近な機器ですが、産業として見ると、輸出が約95億円ある、日本が世界で戦っている品目です。
今週の数字:市場規模276億円、輸出95億円
| 市場規模(生産+輸入) | 約276.3億円 |
| 国内生産 | 約142.1億円 |
| 輸入 | 約134.2億円(約49%) |
| 輸出 | 約94.9億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約276億円。家庭でも使われる医療機器としては大きな市場です。注目していただきたいのが輸出の約95億円で、これは国内生産142億円の3分の2に相当します。国内の工場が、国内向けと海外向けの両方を支えている構図が読み取れます。
なぜ日本が強いのか——精度という参入障壁
血圧の測定は、見た目より難しい技術です。血圧は測るたびに揺れ動く値であり、機器は、腕に巻いたカフ(帯)の圧力変化という間接的な情報から血圧を推定しています。この推定を支える測定アルゴリズムの作り込みと精度の検証には、長年の蓄積が必要です。
つまりこの品目は、価格だけでは勝負が決まらない、技術の蓄積で差がつく市場です。その領域で日本の機器産業が早くから世界での地位を築き、国内の工場が海外向けの生産拠点にもなっている。輸出95億円という数字は、その結果です。
ただし、手放しで「日本の勝ち」とも言えません。輸入も約134億円あり、国内市場のほぼ半分(約49%)は輸入品です。世界で戦う日本企業と、国内市場に入ってくる海外勢。その両方が存在する、競争の激しい市場と読むのが正確でしょう。
機会の所在——「測ったあと」と「巻くもの」
完成品の血圧計そのもので大手と正面から競うのは、現実的ではありません。機会は本体の周辺にあります。一つは記録の手間です。家庭で測った血圧は、手帳への転記やアプリへの手入力など、記録の方法が人によってバラバラです。毎日の測定値が無理なく集まり、診察や健康管理にそのまま使える仕組みには、まだ工夫の余地があります。健康経営に取り組む企業が社員の健康状態を把握する場面でも、同じ仕組みが求められます。毎日データが生まれる機器は、本体を売って終わりではなく、データの管理・活用の側で収益が続く設計に向いています。
もう一つはカフの装着まわりです。カフは腕に巻く部材であり、中身は縫製と素材の世界です。片手で巻きにくい、腕の太さに合わない、といった使い勝手の声は昔からあり、素材と設計で改善できる領域が残っています。カフは劣化すれば交換される消耗部材でもあります。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・部品の供給です。圧力センサーなどの電子部品、筐体の樹脂成形、そしてカフの縫製。輸出95億円ということは、日本の工場から世界へ出ていく完成品の中に、御社の部材が組み込まれる可能性があるということです。完成品の販売には認証や許可が必要ですが、部材を供給する側に、そうしたハードルは基本的にありません。
一歩踏み込むなら、用途を絞った周辺製品や完成品です。本体の性能で勝負するのではなく、記録の仕組み、装着のしやすさ、施設での多人数測定など、大手が手を回しきれていない部分を狙う。血圧計はクラスII(管理医療機器)で、認証基準が整備されており、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートがあります。
売り先の選択肢が広いことも、この品目の特徴です。医療機関や介護施設向けなら地域の「ディーラー(医療機器販売業者)」、家庭向けならドラッグストアや家電量販店、EC。法人向けの文脈まで含めれば、販路は三つの方向に開いています。どの販路で誰に届けるかを先に決めてから、製品の仕様を考える。この順番が大切です。
今週のまとめ
自動電子血圧計は、市場規模約276億円・輸出約95億円。日本のものづくりが世界で通用している品目ですが、国内市場の半分は輸入品で、競争の厳しい市場でもあります。中小企業にとっての機会は、完成品の正面ではなく、供給網に収まる部材と、「測ったあと」の仕組みにあります。世界へ出ていく完成品の中に自社の技術が収まる場所はないか。毎日生まれる測定データに足せる価値はないか。その二つの問いで、自社の技術を一度見直してみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。