ヘルスケア新規参入コラムNo.009 家庭用電位治療器——50億円市場がほぼ全量国産。販路が壁になる市場の読み方
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
いすやマットの形をした大型の健康機器を、ご実家や温浴施設で見かけたことはないでしょうか。座ったり横になったりして使う、今回の品目、家庭用電位治療器です。体の周りに高い電圧の電界をつくり、その中に身を置くという形の治療器です。
馴染みの薄い方が多い品目だと思います。ところが統計を見ると、市場規模は約50億円。決して小さくない市場です。しかもほぼ全量が国産で、輸出が10億円あります。今回はこの市場の成り立ちを読み解きます。
今週の数字:市場規模50億円、輸入はわずか0.4%
| 市場規模(生産+輸入) | 約49.9億円 |
| 国内生産 | 約49.7億円 |
| 輸入 | 約0.2億円(約0.4%) |
| 輸出 | 約10.3億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約49.9億円。国内生産が約49.7億円で、輸入は約0.2億円、比率にして0.4%しかありません。国内生産でほぼ完結している市場です。一方で輸出は約10.3億円と、国内生産の2割相当が海外へ出ています。
なぜ輸入品が入らないのか——「売り方」がつくる市場
電位治療器は、製品としては大型で単価の高い耐久消費財です。そして、この種の製品の売られ方には特徴があります。店頭で箱を手に取って買うものではなく、体験会や実演販売、対面の説明を通じて、時間をかけて買われていくことが多いのです。価格表を見て一瞬で決まる買い物と、納得を積み重ねて決まる買い物。この製品は後者の典型です。
つまりこの市場の中核は、製品そのものと同じくらい、対面の販売網と顧客との関係にあります。海外の量産品が価格を武器に入り込もうとしても、売るための網がなければ売れません。輸入0.4%という数字は、製品の技術ではなく、売り方の構造が参入障壁になっていることを示しています。技術でも規制でもなく、販路が壁なのです。
機会の所在——壁の内側ではなく、壁の構造から学ぶ
この市場への正面からの新規参入は、率直に言って難路です。販売網の構築には時間と人手がかかり、それこそが既存事業者の何十年分の蓄積だからです。買い手との信頼関係も一朝一夕にはつくれません。ただ、この品目から持ち帰れるものは二つあります。
一つは部材供給の入り口です。年間50億円分の製品が国内で生産され続けている以上、電子部品、高電圧まわりの部品、いす型・マット型の本体を構成する家具部材やクッション材の調達は、国内で動き続けています。完成品市場の壁が高くても、その供給網に部材で加わる道は別にあります。もう一つは、売り方そのものの学びです。高単価の健康機器を、体験を通じて納得してもらいながら売る。この市場が磨いてきた対面販売の手法は、輸出10億円という数字が示す通り、海外でも通用しています。製品の前に販路を設計するという発想は、どの品目に参入するときにも効いてきます。よい製品をつくれば売れる、という思い込みがいちばん危ない。この市場はそれを数字で教えてくれます。
中小企業の入り口はどこか
まず現実的な入り口は部材・部品の供給です。制御や安全にかかわる電子部品、そして製品の体を支える家具・クッション・張り地の世界。いす型の製品は、中身は電気でも、外側は家具のものづくりです。毎日座るものですから、座り心地や張り地の耐久性といった家具としての完成度が、製品の評価に直結します。家具・縫製の技術を持つ会社が医療機器の供給網に触れる接点として、覚えておきたい領域です。
完成品はクラスII(管理医療機器)で、制度上は第三者認証機関の審査で市場に出せるルートがあります。ただし繰り返しになりますが、この市場の壁は認証ではなく販売網です。もし完成品側を考えるなら、既存の販売網と競うのではなく、たとえば温浴施設や宿泊施設への設置といった、別の届け方から発想するのが筋です。
輸出10億円の存在も見逃せません。国内で成熟した製品カテゴリーが、海外では成長の余地を残していることがあります。とくに高齢化は日本だけの現象ではなく、アジアの各国がこれから日本と同じ道をたどります。国内の高齢者市場で磨かれた製品と売り方は、時間差で海外の需要に重なる可能性があります。
今週のまとめ
家庭用電位治療器は、市場規模約50億円・輸入0.4%・輸出10億円。対面の販売網という独特の壁に守られた、国産完結型の市場でした。ここから持ち帰るべきは、参入障壁には技術・規制・ブランド・販路という別々の種類があるということです。数字の表だけでは壁の種類は見えません。参入したい品目が見つかったら、製品仕様を考える前に「誰がどう売るか」を一枚の絵にしてみる。この品目からの持ち帰りは、その習慣です。
「ウチの技術はどの品目に向いているのか?」——そう思われた経営者の方は、ヘルスケアビジネス総研のメールマガジンで、参入検討に役立つ情報を毎週お届けしています。個別のご相談も受け付けています。
本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。