ヘルスケア新規参入コラムNo.004 電動式ネブライザ(吸入器)——市場22億円の小さな機器に、輸出7.7億円が立っている
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
子どもの頃、耳鼻科の診察のあとに、霧の出る機械を口や鼻に当てて深呼吸をした記憶はないでしょうか。あの機械がネブライザです。薬の液体を細かい霧に変えて、呼吸と一緒に喉や気管へ届ける。飲み薬や注射とは別の、「吸い込む」という薬の届け方を支える機器です。
診療所の据え置き型だけでなく、家庭で使う小型のネブライザもあります。喘息のお子さんがいるご家庭などでは、毎日の吸入のために一家に一台という存在です。今回は、この小さな市場の数字を見ていきます。
今週の数字:市場規模22億円、そのうち輸出が7.7億円
統計では「超音波ネブライザ」という品目名で集計されています。
| 市場規模(生産+輸入) | 約22.2億円 |
| 国内生産 | 約13.6億円 |
| 輸入 | 約8.6億円(約39%) |
| 輸出 | 約7.7億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約22億円。医療機器の品目としてはかなり小さな部類です。しかし中身を見ると、国内生産が約13.6億円と6割を占め、輸入は約39%にとどまります。さらに輸出が約7.7億円。国内生産13.6億円に対して、その半分超に相当する金額が海外へ出ている計算です。
なぜ小さな市場で国産が残っているのか
家庭向けの医療機器には、価格競争で生産が海外へ移り、輸入品が市場の大半を占めるようになった品目が少なくありません。その中でネブライザは、市場が小さいのに国産の足場が残り、輸出まで立っています。なぜでしょうか。
一般論として、市場が小さいことは、そこで戦う側にとって悪いことばかりではありません。大量生産・低価格の勝負に持ち込むには市場が小さすぎるため、海外の量産勢がわざわざ攻める対象になりにくいのです。一方で、霧の粒の細かさや薬液の無駄の少なさ、毎日使うものとしての手入れのしやすさといった、細かな作り込みが製品の評価を左右します。小さくても技術で差がつく市場では、国内のものづくりが生き残りやすい。ネブライザの数字は、その型の一例と読めます。
輸出7.7億円という数字も、この読み方を裏付けます。市場規模22億円の品目で、国内生産の半分超に相当する金額が海外に買われている。価格ではなく品質で選ばれていなければ、こうはなりません。市場の小ささを嘆くのではなく、小さいからこそ残った土俵と捉える。この視点の切り替えが、今回の品目の肝です。
機会の所在——毎日続ける治療を、続けやすくする
この市場を見るうえで、もう一つ押さえておきたいのが在宅医療の流れです。治療の場が病院から家庭へ広がるほど、医療機器には「医療者がそばにいなくても、患者さんや家族が迷わず使える」ことが求められるようになります。診療所の据え置き型と家庭用とでは、同じネブライザでも設計の思想が変わるのです。
ネブライザによる吸入は、一度やれば終わりではなく、毎日続ける治療です。そして毎日続けるものには、必ず「続けにくさ」という困りごとが付いてきます。準備と片付けに手間がかかる、動作音が大きくて夜に使いにくい、部品の洗浄や乾燥が面倒、外出先に持ち出しにくい。小さなお子さんが嫌がって続かない、という親御さんの悩みもよく聞かれます。こうした声は、製品の構造と設計で応えられる領域です。
また、この機器には薬液カップやマウスピース、マスク、エアチューブといった、定期的な交換が望ましい部品が複数あります。本体は一度買えば数年使われますが、交換部品は繰り返し購入されます。本体22億円という数字の周りに、交換部品の継続需要が付いている。収益の続き方を考えるうえで、見落とせない部分です。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・部品の供給です。霧を生み出す心臓部を支えるのは、小型のポンプやモーター、振動子まわりの部品、そして薬液に触れる部分の樹脂成形です。薬液に触れる部品には素材の安全性や洗浄への耐久性が求められるため、樹脂や表面処理の技術に蓄積のある会社には相性のよい領域です。部材の供給側には、医療機器の認証のようなハードルは基本的にありません。
一歩踏み込むなら、使う場面を絞った完成品や周辺品です。たとえば持ち運びやすさに振り切る、夜間の静かさに振り切る、子どもが嫌がらない使い心地に振り切る。市場全体が22億円でも、特定の困りごとに深く応える製品なら、小さな市場の中で確かな位置を取れます。ネブライザはクラスII(管理医療機器)で、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートが整備されています。
売り先は、医療機関向けなら地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口です。家庭向けは、医師の指導のもとで使われる機器という性格上、医療機関での紹介や調剤薬局の店頭など、医療との接点に近い販路から考えるのが現実的です。輸出7.7億円という数字は、品質で評価される製品なら小さな市場からでも海外へ出られることを示しています。国内で足場を固めてから海外へ、という順番を、この品目の先行例はすでに歩いているわけです。
今週のまとめ
ネブライザは、市場規模約22億円・国内生産6割・輸出7.7億円。大きな市場ではありませんが、量産競争に飲み込まれず、国内のものづくりが足場を保っている品目でした。市場の大きさと、参入機会の大きさは別ものです。小さな市場の細かな困りごとにこそ、中小企業の技術が活きる入り口がある。御社の技術で「毎日使うことの面倒」を一つ減らせないか。小さな市場では、その一点突破が確かな足場になります。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。