普通の会社でもできるヘルスケア事業参入の秘訣#53 医療機器・サービス企業が学ぶべき孫正義氏の「未来を見る目」

こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。
77兆円。
この途方もない金額を、孫正義氏は一つの決断に投じました。
2025年1月21日に発表されたスターゲート計画。世界中のメディアが「AIへの巨額投資」として報じましたが、私はまったく違う視点でこのニュースを見ていました。
なぜ孫氏は、他の誰も動かない時に、これほど大胆な投資ができるのか。
実は、孫氏には「ある特殊な能力」があります。それは、10年後の世界で当たり前になっていることを、今この瞬間に見抜く力です。アリババへの投資で2000倍のリターンを得たのも、iPhoneの独占販売で日本のモバイル市場を制したのも、すべてこの能力によるものでした。
医療機器・サービス企業の経営者にとって、孫氏の「未来を見る目」は今こそ学ぶべき重要なスキルです。なぜなら、医療業界にも「10年後の当たり前」がすでに芽吹いているからです。
なぜ孫正義氏だけが「未来」を先取りできるのか
孫氏の投資哲学を理解するには、まず彼の思考法の本質を知る必要があります。
多くの経営者は「技術」を見ます。しかし孫氏は「技術が生み出す社会変化」を見ているのです。この違いが、先見性の差となって現れます。
1999年のアリババ投資を例に考えてみましょう。当時の中国のインターネット普及率はわずか0.2%。誰もがeコマースなど夢物語だと考えていました。しかし孫氏は違いました。彼が見ていたのは、14億人の中国人がインターネットで買い物をする未来。技術的な可能性ではなく、人間の本質的な欲求(便利に買い物したい)と、それを可能にする社会の変化を見抜いていたのです。
iPhoneの独占販売権も同じです。2008年当時、日本ではガラケーが主流。多くの人は「日本人には物理キーボードが必要」と考えていました。しかし孫氏は、人々がポケットに「インターネット」を入れて持ち歩く未来を見ていました。
そして今回のスターゲート計画。OpenAIのサム・アルトマンCEOは、孫氏について「半導体製造から電力供給まで、AIインフラに必要なサプライチェーン全体を俯瞰できる数少ない経営者」と評価しています。
孫氏が本当に見ているのは、AIが電気や水道のような「当たり前のインフラ」になる未来なのです。
技術の延長線上ではなく、社会の変化を見る
孫氏の投資判断で重要なのは、技術の進化そのものではなく、その技術が社会にもたらす根本的な変化を見抜いていることです。
アルトマンCEO自身が、あるインタビューで興味深い告白をしています。「私たちは、人々がこれらのモデルをどれだけ使うかについて、以前は考えていなかった」と。実際、ChatGPTの画像生成機能が公開された際、サム・アルトマンは「GPUが溶けている」とX(旧Twitter)に投稿するほど、想定を超える利用がありました。
技術者は技術の可能性に注目しがちですが、孫氏は常に「人々がその技術をどう使うか」を考えています。過去のインターネット革命、モバイル革命を経験してきた彼だからこそ見える、技術普及の必然的なパターンがあるのです。
ソフトバンクは通信インフラ企業として成長してきました。3G、4G、5Gと、常に次世代の通信インフラに先行投資し、市場を押さえてきました。孫氏の投資は常に「早すぎる」と批判されてきました。アリババへの投資も、当時は時期尚早だと考えられていました。しかし振り返ってみれば、それは「ちょうど良いタイミング」だったのです。
医療機器・サービス企業が学ぶべき視点
この孫氏の思考法を、医療機器・サービス企業はどう活かせばよいのでしょうか。
重要なのは「現在の延長線上で考えない」ことです。多くの経営者は、今日の売上を明日どう伸ばすかを考えます。しかし、真の先見者は「10年後の当たり前は何か」を考え、そこから逆算して今の行動を決めるのです。
医療業界における「10年後の当たり前」は、技術そのものではなく、社会の変化から生まれます。高齢化社会の進展、医療従事者の不足、予防医療への意識の高まり。これらの社会変化が、新たな技術の需要を生み出すのです。
孫氏なら、医療機器の性能向上ではなく、その機器が医療現場や患者の生活をどう変えるかを考えるでしょう。AIの導入も、技術としてのAIではなく、AIが医療従事者の働き方や患者の治療体験をどう変えるかに注目するはずです。
中小企業こそ「未来を見る目」が武器になる
「うちのような規模では、孫さんのような大胆な投資は無理だ」
そう思われる経営者も多いでしょう。しかし、ここで重要なのは投資額の大小ではありません。未来を見通す「視点」こそが重要なのです。
実際、孫氏自身もソフトバンクを創業した当時は、たった2人の小さなベンチャー企業でした。資金もなく、信用もない。あったのは「デジタル情報革命で人々を幸せに」というビジョンだけでした。
医療機器・サービス企業も同じです。大企業が見過ごしているニッチな領域にこそ、10年後の当たり前が隠れています。
重要なのは、これらが単なる「便利な製品」ではなく、「10年後の医療に不可欠なインフラ」になる可能性を見抜くことです。孫氏がアリババやiPhoneで見抜いたように、人々の生活を根本から変える可能性を持つものを見つけることです。
今、経営者が自らに問うべき問い
孫氏は常に自らに本質的な問いを投げかけています。
「この技術は人類を幸せにするか」 「10年後、この投資は当たり前になっているか」 「今動かなければ、いつ動くのか」
医療機器・サービス企業の経営者も、今こそ自らに問いかけるべきです。
「10年後の医療はどうなっているか」 「自社の強みは、その未来でどう活きるか」 「今、何に投資すべきか」
重要なのは、これらの問いに対する答えを、現在の常識や制約にとらわれずに考えることです。
「待つ」のではなく「創る」経営へ
アルトマンCEOは、5000億ドルという投資について「もし今1兆ドルを調達する方法を知っていたとしても、今後数年間でそれを収益性高く展開できるかどうかは分からない。しかし、5000億ドルなら価値を生み出せると確信している」と述べています。
この発言は、巨大投資にも計算されたリスク管理があることを示しています。孫氏も同じです。77兆円という数字は途方もないように見えますが、彼にとっては「確実に価値を生み出せる」範囲なのです。
医療機器・サービス企業も、自社の規模に応じた「確実に価値を生み出せる」投資規模を見極めることが重要です。それは必ずしも巨額である必要はありません。重要なのは、未来を待つのではなく、未来を創る側に立つという決意です。
技術ではなく、人間の変化を見る
孫氏の投資哲学の核心は、技術の進化ではなく、人間の行動変化を見抜くことにあります。
アリババへの投資は、eコマース技術への投資ではありませんでした。「人々が便利に買い物をしたい」という普遍的な欲求への投資でした。iPhoneの独占販売も、スマートフォン技術への投資ではなく、「人々がいつでもどこでもインターネットにアクセスしたい」という欲求への投資でした。
医療機器・サービス企業の経営者も、技術開発に没頭するのではなく、その技術が人々の行動をどう変えるかを考えるべきです。患者はどんな体験を求めているのか。医療従事者はどんな働き方を望んでいるのか。その答えの中に、10年後の当たり前が隠れています。
おわりに
スターゲート計画の77兆円という数字に圧倒されるのではなく、その背後にある孫正義氏の思考法に注目すべきです。
彼の先見の明は、特別な才能ではありません。「10年後の当たり前を、今見つける」という視点と、それを信じて行動する勇気の結果です。
医療機器・サービス企業の経営者の皆様も、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。皆様が今見ている医療の「当たり前」は、本当に10年後も当たり前でしょうか。そして、10年後の当たり前は、今どこに芽吹いているでしょうか。
技術の延長線上ではなく、社会の変化の中にこそ、真のビジネスチャンスは眠っています。孫氏のように、その変化を見抜き、未来を創る側に立つ。それが、これからの経営者に求められる最も重要な能力なのです。
本記事はいかがでしたか?ぜひご意見やご感想をお寄せ下さい。
出典リスト
- ソフトバンクグループ株式会社(2025年1月21日)「Stargate Projectについて」 https://group.softbank/news/press/20250122
- Impress Watch(2025年1月22日)「米国のAIに5000億ドル投資 OpenAIやソフトバンクら『Stargate Project』」
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1656345.html - 現代ビジネス(2025年1月29日)「イーロン・マスクはアルトマンを「憎悪」…!トランプ、孫正義らのAIインフラ計画「スターゲート」に、中国「DeepSeek」がショックを受けている理由」 https://gendai.media/articles/-/145810
- 東洋経済オンライン(2025年4月15日)「「75兆円スターゲート計画」の金策は意外に堅実?ソフトバンクグループの先行きを占う財務リスク、焦点は”それ以外”」
https://toyokeizai.net/articles/-/870611