普通の会社でもできるヘルスケア事業参入の秘訣#35 「手抜き」を活かすサービス開発
こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。
「健康管理アプリを開発したのですが、ダウンロード後の継続率が大きく下がってしまうんです」「最新のAI機能を実装したのに、ほとんどのユーザーが基本機能しか使ってくれません」。
ヘルスケア新規事業を手掛ける経営者の方々から、こうした切実な悩みをよく伺います。今回は、このようなユーザーの行動に関する課題にフィットする新しい視点をご紹介したいと思います。
「楽」を選ぶ人間の本質
多くのヘルスケアサービスが市場で苦戦する背景には、人間の本質的な行動特性を見落としているケースが少なくありません。
例えばヘルスケアアプリを開発して、最新のAI技術を活用した詳細な健康分析機能を実装したと仮定しましょう。利用者の生活習慣を細かく分析し、パーソナライズされた改善アドバイスを提供する画期的な機能です。
開発者は「より詳細な分析とアドバイスがあれば、利用者の行動変容を促せるはず」と考えました。しかし実際には、冒頭でお伝えしたように多くのユーザーがこの高度な機能を使わず、基本的な記録機能だけを利用して離脱してしまいます。なぜでしょうか。
この現象を理解する鍵が、行動デザインの専門家スティーブン・ウェンデルが提唱する「チート(近道行為)」という概念です。
チートとは、人間が本質的に持っている「最小の労力で最大の効果を得ようとする」行動特性を指します。重要なのは、このチート行為は単なる「怠け」ではないということです。
ウェンデルの研究によれば、チートには三つの重要な特徴があります。一つ目は「省エネ性」です。人間は本能的に、少ないエネルギー消費で目的を達成できる方法を選びます。二つ目は「即効性」です。長期的な利益よりも、目の前の小さな成果を優先する傾向があります。三つ目は「代替投資」です。ある領域で省いたエネルギーを、自分がより価値を感じる別の活動に振り向けようとするのです。
サービス開発における新しい視点
従来のヘルスケアサービスの多くは、ユーザーの意識や行動の変容を求めることに主眼を置いていました。
しかし、人々は必ずしも「より良い生活」のために大きな努力や投資をしたがらない傾向があります。むしろ、日常生活の中で自然に、より健康的な選択ができる環境を求めているのです。
例えば高機能で高額なヘルスケアサービスよりも、日常生活に自然に組み込めるシンプルなソリューションの方が、ユーザーの継続率が高いと言われていjます。人は自然な形で健康的な行動を実現できる方法を求めているということなのです。
これからのヘルスケアビジネス
それでは私たちはこれからの新規事業開発においてどのような姿勢を取ることが必要なのでしょうか。
例えばユーザーに多くのデータ入力や行動変容を求めるのではなく、日常的な活動の中から自然にデータを収集し、さりげなくアドバイスを提供するようなサービス設計が効果的でしょう。そして、その省力化によって生まれた余力を、ユーザーが本当に価値を感じる活動に振り向けられるような仕組みづくりが求められます。
ヘルスケアビジネスにおいて、「楽」を追求することは決してサービスの質を下げることではありません。むしろ、人々の自然な行動傾向を理解し、それを活かしたサービス設計こそが、持続的な市場成長につながるのです。
私たちは、高額な投資や無理な努力を求めるのではなく、日常生活の中で自然に健康的な選択ができる環境づくりを目指すべきではないでしょうか。
このコラムでは医療・ヘルスケアビジネスに関係する情報やノウハウをお送りしています。
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