#26 事業に成功をもたらす失敗の捉え方

こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。

先日、ある著名な新規事業家の方のセミナーに参加しました。SaaS関連の事業を立ち上げされたのですが、華々しい成功の裏でどのように苦労されたのか、失敗事例を交えて、経験談や生の事業計画書を教えて頂きました。

サービス業は医療機器開発とは違い、スピード感のある事業の進め方だと感じましたが、一方で心構えや姿勢については事業分野に関わらず共通だという印象を持ちました。今日は、ヘルスケア分野に限らず新規事業を成功に導くために欠かせない失敗に対する心構えについてお話しします。

さて、技術進歩や政治・経済の情勢が目まぐるしく変化する現代、多くの企業が新たな成長の機会を求めて新規事業に挑戦しています。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。

新規事業の成功には、革新的なアイデアや緻密な戦略だけでなく、経営者や事業開発担当者の心構えが不可欠です。今回は、そのの重要性に焦点を当て、事業成功への道筋を探ってみたいと思います。

新規事業成功の本質:失敗を織り込むこと

新規事業を立ち上げる際、多くの経営者が陥りがちな罠があります。それは、表面的な戦略や流行りの経営手法に頼りすぎてしまい、確実に勝てる方法、”青い鳥”を探してしまうことです。

私がよくスタンフォード大学式の開発手法についてワークショップなどをやっていると、「どうすれば確実に市場性のある製品を開発できるようになりますか?」といった声を頂きます。よりスマートに成功を収められるような方法論を探してしまう気持ちも分かりますし、そういった要素も重要ですが、真の成功の鍵は、もっと深いところにあります。

それは、成功のために、失敗する準備をしておくことです。

これは一見すると逆説的な言い回しなのですが、ここが本質です。どういうことかと言いますと、皆さんは成功事例=成功、失敗事例=失敗と短絡的に考えてしまいがちだということです。

真の成功事例の多くは、順風満帆で最初から最後まで上手く行ったというケースは少なく、撤退の危機に瀕しながらも何とか繋いで先に進むというケースが多いのです。つまり、成功事例の中にはたくさんの失敗が含まれており、失敗を重ねながらやっとで成功に到達するのが普通であるということになります。

しかし、世間では成功事例の成功の側面にだけスポットライトが当たっていて、上手く行ったロードマップを公式化してそれに乗っかれば上手く行くと勘違いしているケースが多いのです。私が日本で普及活動をしているスタンフォードバイオデザインのような世界最高クラスの方法論を使ったとしても、実際に失敗は起こっています。

失敗自体を防ぐことができれば良いのですが、いくらノウハウを駆使してもゼロにすることはできません。どうやって失敗を乗り越えるかに意識を向けてみましょう。そこに焦点を合わせて成功事例や失敗事例を分析すると、全く別の側面が見えてきます。

失敗への心構え

それでは、失敗を乗り越えることを前提にプロジェクトを進めると言ったときに、どのような心構えが必要になるのでしょうか?

まず第一には、「この事業を、絶対に成功させる」という揺るぎない意志です。

意志が重要というのは、当たり前のことのように思われるかもしれません。

しかし多くの事業家は、思い通りに行かないことが何度も何度も繰り返し起こってしまうと、逃げ腰になってしまったり、継続が難しくなってしまったりします。「このままでは事業が失敗してしまうのではないか?」「会社が傾いてしまうのでは?」そう思うと、モチベーションや創造性が下がってしまい、結果的に実力を十分に発揮できなくなるのです。

新規事業の道のりには、通常、予期せぬ障害や挫折が待ち受けています。七転び八起きとはよく言いますが、普通の人は7回連続で失敗してもなお挑戦できるほどメンタルが強くないのです。そんな時、表面的な戦略だけでは乗り越えられません。

まず必要となるのは、本当にやり甲斐がある、成し遂げたいと感じられる事業に取り組んでいること。そして他人主導ではなく、自分が中心の事業だと捉えて主体性を持って取り組める姿勢です。

失敗したときの準備をしておく

そして次に重要となるのが、実際に失敗したときの対応策です。

失敗を恐れないと口で言うのは簡単ですが、実際にそれを実践するのは非常に難しいです。

十中八九失敗すると言う言葉もあるくらい、事業には失敗はつきものですが、逆に考えると10回のうち8回失敗したとしても、残りの2回で挽回できるようにすれば、必ず成功するといえます。要は8回の失敗に耐えられるリソース(時間、資金)を用意する、または8回失敗することを前提に、リスクを1/8程度に調整して進めれば良いということになります。

殊に医療機器開発になると、先に用意すべき投資額が大きくなるためか、極端に大きなリスクを取ってしまう企業も多く見受けられます。現在の開発ステージや、事業性リスクに応じて、妥当なリスクの範囲を判断することが必要なのです。

失敗の可能性をできる限り下げる努力も忘れずに

ここまで失敗に対する心構えについて論じてきましたが、一方で失敗自体のリスクを下げる努力も非常に重要です。いくら失敗に対する耐性を高めても、むやみに失敗を重ねることは時間とリソースの無駄遣いとなってしまいます。

特に重要となるのが「目利き力」です。これは単なる市場規模の把握や競合分析というだけではありません。真の目利き力とは、表面的なトレンドの先にある本質的な現場のニーズを見抜く力です。

目利き力を養うためには、幅広い情報収集と深い分析が重要で、医療現場への直接的な観察やヒアリング、最新の医療技術動向の把握、そして国内外の先進的な取り組み事例の研究などを通じて、収益に繋がるようなニーズを理解することが重要です。

このような目利き力に加え、綿密な市場調査の実施、精度の高い事業計画書の作成、そして何より実効性の高いオペレーション体制の構築が重要となります。特にヘルスケア分野では、これらをうまく構築するために、医学的な専門知識や新規事業開発のノウハウが必要不可欠です。

自社内にそうした専門性が不足している場合は、外部の経験者を積極的に巻き込むことを強くお勧めします。必要な専門性を補完し、失敗リスクを最小限に抑える取り組みも、新規事業成功への重要な要素となるのです。

失敗への準備が成功を左右する

新規事業の成功には、革新的なアイデアや緻密な戦略、そして時には運も必要です。しかし、それ以上に重要なのが、ここまで述べてきたような失敗に対する心構え、失敗への対策です。これらが新規事業を真の成功へと導く基盤となります。

このコラムでは医療・ヘルスケアビジネスに関係する情報やノウハウをお送りしています。

面白かった記事やためになった記事は、ぜひTwitter(X) / Facebookでいいね!と拡散をお願いします。また記事に関する要望と意見があれば、コメント、DM、SNSからご連絡頂けると嬉しいです。

最後までお読み頂きありがとうございました。

Follow me!