ヘルスケア新規参入コラムNo.021 注射針——851億円の最大級市場、輸出315億円。極細加工が世界で戦う
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
予防接種や採血、点滴のたびに体に刺される、あの細い針。今回の注射針は、医療の現場で最も大量に使われる消耗品の一つです。患者さんごとに使い捨てられ、病院や診療所が動く限り消費され続けます。一本あたりは数十円の世界ですが、使われる本数は膨大です。
地味な消耗品に見えて、この品目は産業として大きな顔を持っています。市場規模851億円という大きさと、315億円の輸出。日本のものづくりが世界で戦っている品目です。
今週の数字:市場規模851億円、輸出315億円
| 市場規模(生産+輸入) | 約851.4億円 |
| 国内生産 | 約646.9億円 |
| 輸入 | 約204.5億円(約24%) |
| 輸出 | 約314.7億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約851億円。家庭用機器とは桁の違う、大きな市場です。国内生産が約647億円で、輸入は約24%にとどまります。さらに輸出が約315億円。国内生産の半分近くに相当する金額が、海外に買われている計算です。注射針は、国内供給を国産でまかないながら、海外でも評価される、数少ない輸出型の医療消耗品です。
なぜ日本が強いのか——髪より細い管を、まっすぐ大量に
注射針の中身は、ごく細い金属の管です。これを大量に、同じ品質で作るのは、見た目ほど簡単ではありません。針の内側を通る薬剤の流れを妨げないよう内径を保ちつつ、外側はできるだけ細くして刺したときの痛みを抑える。先端は鋭く正確に研磨する。極細の管をまっすぐに加工し、研ぎ、洗い、滅菌するまでの一貫した精度が問われます。
この極細管の加工と研磨は、日本の金属加工が長年得意としてきた領域です。痛みの少ない細い針をつくる技術で、日本のメーカーが世界的な評価を得てきました。地味な消耗品でありながら、技術で差がつく。だからこそ価格競争に飲み込まれず、国産が市場を支え、輸出まで立っているのです。
針の太さは、患者さんの負担に直結します。同じ薬を入れるにも、より細い針で済めば痛みは小さくなる。しかし細くすれば管の中も狭くなり、薬が通りにくくなったり、加工が難しくなったりします。この相反する条件を高い水準で両立させる作り込みに、長年の蓄積がものを言います。安く大量に作る力だけでは届かない品質が、国産を支えているのです。
機会の所在——「より細く、より痛くなく」と量産の安定
機会の方向は二つあります。一つは、針そのものの性能を高める技術です。患者さんの負担を減らす、より細く痛みの少ない針への要求は続いています。極細管の加工、先端の研磨、表面の処理。こうした技術を磨くことが、価格以外で選ばれる理由になります。注射針の技術は、薬を皮膚のごく浅い層に届けるような新しい投与方法にも通じており、応用の広がりも見込めます。
もう一つは、安定した大量供給です。毎日大量に消費される消耗品は、品質を保ったまま、途切れずに供給できることそのものが価値になります。一度採用されれば繰り返し注文が入り、収益が安定して続きます。針単体だけでなく、針と注射器を組み合わせた製品や、針の周辺部材まで含めて、関わり方は広がります。
中小企業の入り口はどこか
手前の入り口は極細管の加工・研磨・表面処理です。針の元になる金属管の加工、先端の研磨、滑りをよくする処理。金属の微細加工に強みを持つ会社にとって、自社技術をそのまま活かせる領域です。完成品メーカーへの工程供給という形なら、医療機器の認証を自社で抱える必要は基本的にありません。
注射針はクラスII(管理医療機器)で、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートが整備されています。微細加工の力を持つ会社が、工程の受託から始め、やがて完成品へと関わりを広げていく道も描けます。
売り先は、病院・診療所などの医療機関で、地域のディーラー(医療機器販売業者)が窓口になります。輸出315億円という数字は、品質で評価される針なら海外市場にも道があることを示しています。
今週のまとめ
注射針は、市場規模約851億円・国産が大半・輸出315億円。最も大量に使われる消耗品でありながら、極細加工という技術で日本が世界と戦えている品目でした。地味で小さな部品ほど、技術の差が効いてくる。金属の微細加工や研磨に強みを持つ会社は、自社の技術がこの「より細く、より痛くない針」にどう活きるか、一度確かめてみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。