ヘルスケア新規参入コラムNo.011 CPAP(持続陽圧呼吸療法装置)——輸入94%の173億円市場と、毎月続く収益のかたち
毎週1つの医療機器を公的統計の数字で読み解き、部材供給から最終製品まで、中小企業の事業機会を探すシリーズです。
皆さん、こんにちは!ヘルスケアビジネス総研の原です。
「いびきがうるさい」と家族に言われている。日中、会議中なのに強い眠気に襲われる。健康診断や人間ドックで「睡眠時無呼吸の疑い」を指摘された。ご自身か、身近な誰かが思い当たる方は少なくないはずです。
睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療に使われるのが、今回の品目CPAP(シーパップ)です。眠っている間、鼻に装着したマスクから空気を送り続け、塞がりやすくなった気道を空気の圧力で開いておく装置です。耳鼻咽喉科医である私にとっても、診療で日常的に関わる機器です。そしてこの品目は、統計を見ると輸入比率94%という、極端な輸入依存を示します。
今週の数字:市場規模173億円、輸入が94%
統計では「持続的自動気道陽圧ユニット」という品目名で集計されています。
| 市場規模(生産+輸入) | 約172.8億円 |
| 国内生産 | 約9.9億円 |
| 輸入 | 約162.9億円(約94%) |
| 輸出 | 約0.1億円 |
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/105-1c.html
市場規模は約173億円と、家庭や在宅で使われる医療機器の中ではしっかりした規模です。そのうち国内生産は約9.9億円しかなく、輸入が約163億円、比率にして約94%に達します。
なぜここまで輸入に偏ったのか
CPAPは、グローバルの専業メーカーが長年かけて技術と実績を積み上げてきた分野です。静かに、安定して、一晩中圧力を保ち続ける送風の制御。毎晩使っても苦にならない小型軽量の設計。睡眠データの記録と通信。こうした作り込みの蓄積で、世界市場は少数の海外勢に集約されてきました。日本市場もその供給網の中にあり、国内生産がごく小さいのが現状です。
一方で、患者数の側を見ると、睡眠時無呼吸症候群は決して珍しい病気ではなく、治療を受けるべき人がまだ治療にたどり着いていない、診断の裾野が広い領域とされています。日中の眠気は仕事の質や運転の安全にも関わりますから、経営の観点からも無視できないテーマです。市場規模173億円は、伸びる余地を残した数字と読むことができます。なお国内生産も約9.9億円あり、国内のものづくりの足場が完全に消えたわけではありません。
機会の所在——「続ける治療」を支える周辺に
CPAP治療の特徴は、買って終わりの治療ではないことです。多くの場合、装置は医療機関を通じて患者さんに貸し出され、毎月の診察と組み合わせて使い続けられます。つまりこの市場は、装置の売り切りではなく、月々の利用と管理に対して収益が続く、リカーリング型の構造を最初から持っています。機器を売って終わりにしない「売ったあとに収益が続く形」の、最も完成された見本です。
そして、続ける治療には、続けることの難しさが伴います。マスクの装着感が合わない、空気の乾燥が気になる、音が気になる、旅行や出張に持っていきにくい。毎晩のことだけに、小さな不快が積み重なると治療から離脱してしまう。装置本体は海外勢が押さえていても、続けやすさを支える周辺には、まだ応えられていない困りごとが残っています。
中小企業の入り口はどこか
まず手前の入り口は部材・周辺品の供給です。装置の中核である小型送風機まわりの部品、マスクやホースに使われる肌当たりのよい樹脂・シリコーンの成形、加湿まわりの部品。とくにマスクとホースは定期交換が前提の消耗品であり、装置本体より手前にある、繰り返し需要の領域です。日本人の顔の形に合うマスクという切り口は、海外製品が主流の市場だからこそ成り立つ着眼です。肌に毎晩触れるものですから、素材の柔らかさや蒸れにくさといった、素材と成形の細やかさが物を言います。
もう一つの入り口はソフトウェアとデータの周辺です。CPAPは毎晩の使用状況がデータとして残る機器であり、治療を続けるための声かけや、医療機関側の管理業務を支える仕組みには工夫の余地があります。医療機器そのものに踏み込む前に、業務支援の側から市場に関わる道もあります。
完成品の装置はクラスII(管理医療機器)で、第三者認証機関の審査で市場に出せるルートがありますが、グローバル勢と装置本体で競うのは現実的ではありません。売り先の面では、この機器は在宅医療を担う事業者や医療機関を通じて患者さんに届くため、地域のディーラー(医療機器販売業者)や在宅医療の事業者が、業界理解の入り口になります。家電のように店頭で売る機器ではない、という流通の特殊さを最初に理解しておくことが、この市場では遠回りに見えて近道です。
今週のまとめ
CPAPは、市場規模約173億円・輸入94%・輸出ほぼゼロ。装置本体は海外勢に集約された市場ですが、毎月収益が続くリカーリング型の構造と、「続ける治療」ならではの未解決の困りごとを併せ持つ品目でした。本体で勝てない市場でも、続けやすさを支える周辺には日本のものづくりの出番が残っています。マスクやホースなどの消耗品、毎晩のデータを扱うソフトウェア。自社の技術が当てはまる場所がないか、検討する価値のある品目です。そして、いびきや日中の眠気に心当たりのある方は、市場調査より先に、一度検査を受けてみてください。
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本記事の統計数値は厚生労働省「薬事工業生産動態統計年報」(令和6年)に基づきます。市場の解釈・ビジネス機会に関する記述は筆者の見解であり、特定の事業の成果を保証するものではありません。医療機器の製造販売には薬機法に基づく許認可が必要です。具体的な参入をご検討の際は専門家にご相談ください。