普通の会社でもできるヘルスケア事業参入の秘訣#48 経営者が知っておくべき新時代のアイディア活用法 – 20世紀の天才が生み出した「第二の脳」の作り方

こんにちは、ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。
「原先生、最近いろんな情報管理ツールを試しているんですが、結局どれも一時的な情報処理で終わってしまって、会社の知的資産として蓄積されていないんです」
先日、あるヘルスケアベンチャーの経営者からこんな相談を受けました。実は、この悩みは多くの経営者が直面している課題です。
毎日大量の情報に触れ、重要な気づきや顧客からのフィードバックを得ているのに、それらが散在してしまい、必要な時に取り出せない。せっかくの知識が死蔵されてしまっているのです。
今回は、この問題を根本的に解決する方法をご紹介します。それは、20世紀の天才社会学者が30年かけて完成させた「究極の知識管理法」を、現代のテクノロジーで進化させたものです。
30年で70冊の本を書いた男の秘密
ドイツの社会学者ニクラス・ルーマン(1927-1998)は、驚異的な生産性で知られていました。30年間で70冊以上の本と400本を超える論文を発表。しかも、その内容は多岐にわたり、どれも深い洞察に満ちていました。
彼の秘密は「ツェッテルカステン」という独自の知識管理システムにありました。
ツェッテルカステンとは、ドイツ語で「メモの箱」を意味します。ルーマンは約9万枚のカードを使って、自分の「第二の脳」を作り上げたのです。
なぜこの方法が画期的だったのか
従来のノート術との決定的な違いは、情報を「つなげる」仕組みにありました。
通常、私たちはノートを時系列で書いたり、テーマごとにファイリングしたりします。しかし、これでは異なる分野の知識が結びつかず、新しいアイディアが生まれにくいのです。
ルーマンの「つなげる」とは、単に関連情報をまとめることではありませんでした。彼は、日々の思いつきから始まり、それを既存の知識体系の中に位置づけ、新しい洞察へと昇華させるプロセスを確立していたのです。
具体的には、各アイディアに独自の番号を付け、関連する他のアイディアへの参照を記載。例えば「顧客満足度」について書いたカードに、以前書いた「製造コスト削減」のカード番号を記載することで、一見関係なさそうな概念同士が結びつきます。
重要なのは、この「つながり」が事前に計画されたものではなく、知識が蓄積される中で自然発生的に生まれることでした。まるで脳内でシナプスがつながるように、思わぬ組み合わせから新しい事業アイディアが生まれる。これが、ルーマンが膨大な著作を生み出せた理由でした。
紙の時代の限界
しかし、ルーマンの方法には大きな問題がありました。
毎日何時間もカードの整理に費やし、関連するカードを探すのに苦労する。カードが増えれば増えるほど、管理は困難になっていきます。彼の死後、研究者たちがそのシステムを解読するのに苦労したことからも、いかに複雑で個人的なシステムだったかがわかります。
現代の経営者にそんな時間はありません。
デジタル時代の「第二の脳」
そこで注目したいのが、最新のデジタルツールを使った方法です。
例えば、私が日々の業務で活用している「Obsidian(オブシディアン)」というツールは、ルーマンの理想を現代に蘇らせました。これは、情報と情報を自動的につなげ、まるで脳のニューロンのようなネットワークを作り出すツールです。
さらに、最近では人工知能(AI)との組み合わせにより、驚くべき進化を遂げています。
知識がつながることで生まれる価値
このシステムの真価は、異なる時期、異なる文脈で得た情報が自然につながることにあります。
例えば、数年前の顧客からの要望と、最近読んだ技術動向の記事、そして規制の変更情報。これらが有機的につながることで、今まで見えなかった事業機会が浮かび上がってくることがあります。
人間の記憶では忘れ去られてしまうような過去の情報も、システムの中では「生きた知識」として、必要な時に最適な形で現れるのです。
なぜ今、この方法が必要なのか
現代の経営環境では、情報の量と速度が桁違いに増しています。
顧客の声、市場動向、技術革新、規制変更。これらすべてを頭の中だけで管理することは不可能です。かといって、単にデータベースに保存するだけでは、宝の持ち腐れになってしまいます。
重要なのは、情報を「生きた知識」として活用できる仕組みを作ることです。
経営者が今すぐ始めるべき理由
日本の経営者の多くが、新しいアイディアの創出に苦慮しています。その原因の多くは、情報の質にあります。
SNSやニュースサイトには刺激的な情報があふれていますが、その多くは表面的で、自社の文脈に落とし込むことが困難です。結果として、流行に飛びついては失敗を繰り返すケースが後を絶ちません。
大切なのは、外部の「誰かの成功事例」を追いかけることではなく、自社が蓄積してきた知見を深く掘り下げ、独自の価値を生み出すことです。
自分で考える力を取り戻す
このシステムの最大の価値は、「自分で考える力」を増幅させることにあります。
AIに質問を投げかけるだけの受動的な使い方ではなく、自分が蓄積した情報をもとに、AIと対話しながら新しい洞察を得る。それは、優秀な参謀を得るようなものです。
例えば、「うちの顧客が本当に求めているものは何か」という問いに対して、過去の商談記録、クレーム対応、市場調査データなどが有機的につながり、今まで気づかなかった答えが浮かび上がってくる。これは、コンサルタントの分析レポートを読むよりも、はるかに価値のある気づきです。
これからの経営に必要なこと
情報があふれる時代だからこそ、経営者に必要なのは「情報を選別する目」と「深く考える時間」です。
質の低い情報に振り回されるのではなく、自社の経験と知見を体系化し、そこから新しい価値を生み出す。それこそが、これからの時代を生き抜く経営の要諦です。
20世紀の天才が生み出した方法論は、21世紀のテクノロジーと出会うことで、すべての経営者が使える強力な武器となりました。
皆様も、自社の「第二の脳」を構築し、本当の意味での知的経営を実現してみてはいかがでしょうか。情報に踊らされる経営から、情報を活かす経営へ。その第一歩が、ここにあります。
ルーマンのアーカイブ(ドイツ語)
Niklas Luhmann-Archiv: https://niklas-luhmann-archiv.de/
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