普通の会社でもできるヘルスケア事業参入の秘訣#40 デジタルヘルスソリューション市場の新潮流:持続可能なビジネスモデルの模索
こんにちは。ヘルスケアビジネス総合研究所の原です。

先日、ある経営者の方から興味深いご質問をいただきました。
「原先生、デジタルヘルスについて、最近よく耳にするのですが、ビジネスとしての実態はどうなのでしょうか」
確かに、医療分野でもDXやIoTへの関心が高まり、様々な企業がヘルスケア関連のアプリやサービスを展開し始めています。そして今、多くの経営者の方々の関心は「これで本当に収益が出せるのか」という点に移ってきているように感じます。
デジタルヘルスの現状と可能性
そもそもデジタルヘルスとは、デジタル技術を活用して健康・医療・介護に関する課題を解決し、より良い医療やヘルスケアを実現しようとする取り組み全般を指します。スマートフォンやウェアラブルデバイスによる健康管理から、AIを活用した診断支援、遠隔医療まで、その領域は幅広く、私たちの健康と医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。
この背景には、医療費の高騰や高齢化社会の進展があります。従来の医療機器中心のアプローチだけでは、増大する医療ニーズに十分に対応できないという認識が広がっているのです。さらに、コロナ禍を経て、遠隔医療やデジタルセラピューティクスなど、非接触型の医療サービスの重要性も高まっています。
特に注目すべきは、予防医療分野でのイノベーションです。従来の治療中心の医療に比べ、予防医療は医療費の抑制効果が期待できるだけでなく、個人の生活の質の向上にも直接的に貢献します。さらに、保険者や企業にとっても医療費負担の軽減につながることから、市場としての魅力が高いと言えます。ここにデジタル技術を組み合わせることで、リアルタイムでの健康状態の把握や、個別化された予防プログラムの提供が可能となり、予防医療の実効性を大きく高められる可能性があります。
収益化への課題と取り組み
しかし、これらのソリューションが直面している最大の課題は、収益モデルの確立です。多くの企業が優れたテクノロジーや斬新なアイデアを持っているものの、それを持続可能なビジネスに転換できていないのが現状です。医療機器と異なり、保険償還の対象となりにくいことも、収益化を難しくしている要因の一つです。
この課題に対して、先進的な企業では様々な取り組みを始めています。例えば、企業の健康経営支援プログラムとの連携や、医療機関向けのライセンスモデルの構築などです。また、予防医療の経済的価値を定量化し、保険会社との協業を進める企業も出てきています。
さらに、製薬企業との協業も注目されています。デジタルソリューションを既存の治療法と組み合わせることで、治療効果の向上や副作用の軽減を図る取り組みです。このアプローチは、医療の質の向上と収益性の確保を両立させる可能性を秘めています。
市場拡大への期待と先行投資の重要性
この話題について、先日、シリコンバレーのスタートアップ関係者からヒアリングを行う機会がありました。「正直なところ、今はまだデジタルヘルスで儲かっている会社は少ないんです。でも、企業の医療費を何とかしたいとか、社員の健康管理をもっとしっかりやりたいというニーズは確実にある。だから、規制とか制度の環境が整えば、この市場は一気に伸びると思います。だからこそ、今からこの分野に投資して、準備を進めておく必要があるんですよ」という意見を頂きました。
確かに現時点では収益化に課題を抱えているものの、この方のコメントのように医療費の適正化や従業員の健康管理に対する社会的なニーズは今後ますます高まっていくでしょう。そして、規制環境の整備や保険制度の見直しなど、事業環境が整えば、デジタルヘルス市場は一気に拡大する可能性を秘めています。
私たちヘルスケア業界に関わる者としては、目先の収益性だけにとらわれることなく、中長期的な視点で市場の可能性を見極め、必要な投資や体制づくりを進めていく必要があるでしょう。デジタルヘルスは、医療の質の向上と持続可能性を両立させる重要な鍵となる可能性を秘めているのです。