普通の会社でもできるヘルスケア事業参入の秘訣#10 医療ビジネスが他の業界と違うただ1つの特殊性とは

「原先生、このコンセプトの製品って医療業界でも売れませんか?」

これは過去に当社のクライアントから頻繁に寄せられてきたご質問です。ほかの業界で人気を博した製品やサービスが、医療業界でも成功するかどうかは、これを読んでいる皆さんにとっても興味深いポイントでしょう。

しかし、医療業界にはある特徴があり、それを踏まえて事業を構築できているかどうかが成否を握る鍵となります。

結論を先に言いますと、その特徴とは医療業界では登場人物が多いということです。

普通、医療以外のビジネスで製品やサービスを売るときには、企業はお客さんのことを考え、お客さんに価値提供をすれば物が売れます。

しかし、医療・ヘルスケアビジネスはお客さんに加え、多くの登場人物が絡んできます。

分かりやすく言えば、主な登場人物がみんなハッピーにならなければ、商品がお客さんに届かないのです。

例えば、患者さんが実際のユーザーとなる訳ですが、

・患者さんの家族

・患者さんを担当する医師と看護師

・患者さんが入院する病院

・患者さんが加入する保健組合

・患者さんが使う医療機器や薬を売る企業

・担当する医師が所属する学会や関係団体

これらのうち、誰か一人でも「No」と言ったらビジネスは成り立ちません。そのため、全員が「これならいいね」と納得するラインを目指すことが重要なのです。

重要なステークホルダー

今の話をもう少し専門的に深掘りしてみましょう。

前述した中でも、医療・ヘルスケアビジネスには、特に医療従事者、保険者、規制当局という三つの主要な立場(ステークホルダー:利害関係者)が大きく関わっています。それでは、これらの立場を中心に、医療ビジネスの特徴と重要性について具体的に見ていきましょう。

医療従事者の役割

医療従事者は、ここでは医療の専門の資格を持っている職種(医師、看護師など)であり、新しい医療製品やサービスを使用するかどうかを決定する立場です。医療従事者が製品やサービスを信頼し、導入決定することで初めて患者に適用され、広く普及します。そのため、製品開発においては医療従事者の意見を積極的に取り入れ、彼らが協力しやすい環境を整えることが必須となります。

病院の場合、医療従事者が自ら財源を持っている訳ではないので、自分で決済することはありません。あくまで病院が決済しなければ購入に至らないような製品・サービスもありますので、注意が必要です。一方でクリニック向けの場合は院長である医師が通常は決裁権も持っていますので、セールスのやり方が全く異なってきます。

保険者の影響

日本では、保険診療が主流であるため、保険者(日本では各種保険組合)は医療ビジネスにおいて最も重要な役割を担います。製品が保険適用されるかどうかは、その製品の普及に直結します。保険適用されるためには、製品のコスト効率だけでなく、社会的な医療コスト削減が期待できるかどうかが評価されます。このため、医療ビジネスでは、保険者が製品を認め保険適用となることが、市場でセールスを拡大する重要な関門となるのです。

一方で、新しい製品の保険適用や新しい保険償還コードの申請はハードルが高いです。そこで、保険外での医療や、ヘルスケアビジネスなどをうまく活用してマネタイズする方法も考慮すべきと言えます。また、病院が購入して業務を改善するような製品・サービスについては、そもそも保険償還の対象とはなりません。これらの商品は保険者の影響をあまり考慮しなくても良くなります。

規制当局の許可

日本ではPMDA(医薬品医療機器総合機構)が規制当局と呼ばれます。ちなみにアメリカではFDA(アメリカ食品医薬品局)です。規制当局の役割はただ1つ、公衆の安全を守ることにあります。医療製品が市場に出る前に、その安全性と有効性がしっかりと評価され、許可が下りなければ販売することはできません。結果的に医療ビジネスでは、医学的な検証やデータを非常に重視するビジネスとなっており、一般製品でいうマーケティングの観点に加えて、この安全性・有効性という観点でデータや実績を扱うことが特徴なのです。

市場原理の特殊さ

保険者のところでも書きましたが、保険医療が存在する影響がもう1つあり、それは一般的な市場原理が適用されないということです。例えば、ある医療サービスの価格設定は、その有効性や安全性を考慮して行われ、通常の供給と需要のバランスで価格が決まるわけではありません。ここが難しいところで、高い価値を提供する医療サービスが、市場原理を無視して非常に安価に提供された場合、保険診療サービスの改良品を市場価値的に妥当な価格で販売したらどうなると思いますか?

答えは、ほぼ誰も買わないということです。

例えば風邪薬を病院に行ってもらうと3,000円で処方してくれます。効果の高い薬が含まれ、しかも医師の診察付き。これと比べて、一般的な薬局での薬は、決して安い価格ではありません。このように、保険医療での自己負担額(1〜3割負担額であり、医療費全額でもない)を参照価格とされてしまうので、保険医療外で既存品より高価格商品を販売するのは、工夫しなければかなり難しいものがあるのです。特に日本の医療費は世界的にみても非常に安いですので尚更です。

まとめ

医療ビジネスは、その他の業界とは関係者の関わりを考えるという点が一番の差異です。特に、医療従事者が納得して病院が決済してくれること、保険者が保険償還を認めること、そして規制当局に許可をもらうことの3点が特に重要ですので、新規事業をお考えの方は、ぜひご一考くださいね。

このコラムでは医療・ヘルスケアビジネスに関係する情報やノウハウをお送りしています。

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